「農のあるまちづくり」シリーズ、エピローグ。
以下、転載(「東京農業クリエイターズ」2018著:小野淳)
つい先日、春休みの子ども体験企画で「おいしい野菜のヒミツ、う◯◯のパワー」というワークショップを開催しました。会場は東京の人工島、豊洲にある「ガスの科学館がすてなーに」。う◯◯とは、もちろんウンチのことです。
国立の畑に来てもらえるなら、動物たちもいるし、自然環境も味方につけて子どもたちの興味を引っ張れるのですが、会場は東京湾ベイエリアの会議室。地域的にも完全にアウェーです。小学校低学年や就学前の子どもたちの関心を60分間、農体験にひきつけるアイテムとして選んだのがウンチ。ウサギと烏骨鶏もつれていきました。
小動物とふれあい、畑から持っていった馬や羊のモノを含めた「誰のウンチ?クイズ」でひきつけておいて、実際みんなにやってもらうのは「ミニ畑づくり」。小さな有機ポット(土に還る有機物でできた苗ポット)に。堆肥や赤土、腐葉土などを入れて土づくりをしてもらい、仕上げに6種類用意したべビリーフの苗のなかから何種類かを選んで、それを植え付けたら完成です。
最後に、ちょっとだけ図のようなまとめをします。
こうした食物連鎖の命のバトンリレーを、実際にその場で並べます。そして「みなさんはこの輪のどこにいますか?」と問いかけます。たいていの子どもは「野菜」と「動物」の間に自分を入れるのですが、「みんなの身体や死体は誰かに食べてもらってますか?食べてもらってないなら、みんなはこの輪の中にはいません」が正解。
「でも大事な役割があって、生きものたちが命のバトンリレーをしっかりできるように、運動場を管理する仕事があります。それが農業です」
ちょっと説教くさいですが、そもそも、こういうことを都会で暮らす子どもたちにもしっかり知ってもらいたいという想いが、私をメディア業界から農業界へと転身させたのでした。
ワークショップが終わって帰る頃、子どもたちは、みな自分たちの「畑」を両手で大事そうにかかえてくれていました。
豊洲のように東京で最も都会的な空間でも、小さな畑をみんなでつくり、そこにちゃんと命のリレーがあって、だからこそ小さな苗も育ち、それを食べることができる。そんな体験を子どもも大人も、もっと当たり前に都会のあちこちで味わえるようにしていきたいと思っています。
現代社会を生きる上で知っておくべきルールや知識は数多くありますが、やはり一番知っておくべきことは「私たちは何をどのように食べているのか?」「それはどのように生産、供給されているのか」ではないかと私は思います。
ほんの40~50年前までは、わざわざ教育する必要などなかったことかもしれません。でも、ちょっと油断しているうちに都市生活と食農の現場の間には、ずいぶん距離ができてしまいました。世界の大都市でも同様で、第2章で紹介した世界の都市で注目される「アーバンアグリカルチャー」は、そのカウンターです。
私が農業の世界に入ってわずか10余年ですが、その間に農業に対する世間の注目度はずいぶん上がりました。同時に注目の質も多様になってきたと感じます。とくに、「ただおいしいものを消費するだけでは本当の豊かな食生活は獲得できない。自分も参加し、五感で感じたかけがえのない体験ごと食を味わうことこそ本物の贅沢」というコト消費的な感性は、かなり共有されつつあると思います。
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「食農体験を通して日々の暮らしの充実感を得ようという感性」と「農業、農地を持続させて次世代に引き継ぐためのビジネス感覚」。このセットがもつ可能性は、とても大きいと思います。田畑が身近にあって、そこで仕事と子育てができる充実感をたっぷり感じている私は一番の贅沢者かもしれません。そうした生き方・働き方をこれからの若い世代が選択できるように、自ら実践して好事例を積み重ねていくこと、それを積極的に発信していくことをこれからも続けていきます。