いま日本の農業界でもてはやされる”スマート農業”は、本当に『先端』なのでしょうか?
経済効率主義がもたらす弊害を、私たちは既に、十二分に知っているはず。
世界は、その限界と弊害を知った上で、経済効率とは真逆の路線に舵を切り始めています。
以下、転載(タネと内臓 著:吉田太郎)
■世界の潮流と逆行する、日本の農政
いま、日本の農業では「スマート農業」「農業ロボット」「ICI農業」といった言葉が話題を呼んでいる。これからは『農家』ではなく『農業経営者』の育成が必要だとの主張も目立つ。けれども、効率や経営を重視した農業のゆきつく先は、テクノロジーに支配される工業的農業であって、そこで利潤を得るのは先端技術を持った大企業やIT企業、化学企業だけではないだろうか。
世界の流れは、スマート農業や企業型農業モデルとは正反対の【アグロエコロジー】へと向かっている。家族農業による多様な在来種の保存と土壌動物や微生物を活かした農法によって、あえて遺伝子組み換え技術を用いなくても、環境を保全しながら人類を養えることは世界的コンセンサスにもなっている。これらをキーワードに、米国、フランスやイギリス、ロシア、ブラジル等で起きている新たな動きを見てみるとまったく違う世界観が見えてくる。
例えば、フランスでは、2012年12月にステファヌ・ル・フォル元農業食料大臣(以下農相)が「私はフランスを欧州におけるアグロエコロジーのリーダーにしたい」と述べ、それ以降着実な改革を進め、2014年10月にはアグロエコロジーを強力に進める「未来農業食料森林法」を定める。その後、保守政権への政権交代が起きるが、それでも2018年4月に開催された【FAO】の第二回アグロエコロジー国際会議には後任のステファヌ・トラヴェール農業食料大臣が参加し「2025年までにフランス農業の50%以上をアグロエコロジーにする」と宣言した。これは家族農業を重視することとも重なる。
現在FAOで研究を行っており、同会議にも参加した関根佳恵准教授の著作等を著者なりに読み解いて解釈すれば、国際家族農業年で「小規模家族農業」という論理が全面にでてきたことで「家族農業ではなぜ食えないのか」ではなくて「家族農業ではなぜ食えない社会構造になっているのか」へと問いかけの構造が完全に変わってしまったということではないだろうか。
農業経営力は大切だが、個々の経営体にだけ視点を向けると、家族農業で食えないのは経営者のマネジメント力が杜撰だからという自己責任論にゆきつく。ドローン等の先端技術を駆使し情報発信力を身につけ、マーケティングを基軸に斬新な農業を展開してみせるニュータイプの起業家的ファーマーたちがいまもてはやされている。それは一面の真理ではある。けれども、最先端の取り組みとしていま「翻訳輸入」されているハイテク施設農業をとっくの昔に普及させたヨーロッパでは、その限界と弊害も目にしたうえで、さらに一歩先に進んでいる。
例えば、施設農業が盛んなオランダのワーゲニンゲン大学のヤン・ダウ・プローグ教授は六次産業化に走らず、銀行からの借金や余計な投資も手控え、時代遅れの技術に甘んじながら地産地消に勤しむことこそが農業経済的にも最も力強い最先端の経営体であるとして【再百姓化】というニュートレンドに着目する。
イギリスでもトットネスから発した【トランジション運動】は、地場農産物を購入すると同時に、地域の店舗で購入することが大手スーパーの三倍もの雇用を生むとして、ローカル経済を「見える化」することでこうしたトレンドを重層的な面として描いてみせる。ここでもキーワードとなるのがアグロエコロジーだ。